甘やかな螺旋のゆりかご
あたしより十も離れたお兄ちゃんは、鼻を赤くして、ホロ酔い加減で帰ってきた。
「うっわ……酒臭っ」
「おお~?子どもがこんな深夜まで起きてたらいけないんだぞっ」
やたらと機嫌がいいお兄ちゃんは、そう言いながらあたしにデコピンしてくる。
「もうっ。酔ってるからって妹にそんなことしないの。いつもはそんなキャラじゃないでしょ」
飲みやすい熱さの緑茶をお兄ちゃんに渡して、お姉ちゃんは椅子をお兄ちゃんのために引く。
「ありがとな~。はい、お土産」
普段、あまり語尾を伸ばさない、真面目で誠実を具現化したようなお兄ちゃんは、実はホロ酔いじゃなく相当酔っているのか、誇らしげに中くらいの大きさの紙袋をあたしたちに渡してきた。
「要らないから二人と母さんで食べてくれよ」
紙袋の中には、会社の人たちからのチョコが何個か入っていた。
「誰から貰ったか、ちゃんと控えたの?」
「いや~。全く~」
「駄目よ。女子社員を敵に回すことになるから、これは一旦預かっておくわね」
確かに、たとえ義理でも女子はお返しを期待する。期待した分、ホワイトデーに何もないと期待は怒りに変わる場合もあったりする。
毎年毎年、お姉ちゃんは、こうしてお兄ちゃんの世話を焼いていた。