甘やかな螺旋のゆりかご
「おっ!?ここにもチョコレートがあるじゃないか。だから起きてたんだな。てっきりお兄ちゃんを待っててくれたのかと思ったよ~」
まだまだ饒舌なお兄ちゃんは、そうして、両手を前に出して催促をしてきた。
「ヤだっ。数ギリギリだからお兄ちゃんにはあげない」
「お兄ちゃんという生き物は、妹から欲しいものなんだぞっ」
「絶対にあげない」
十も歳上の大人の男の人が、そんなことは絶対にないと思うし、お兄ちゃんには市販のがもう買ってあるから断固拒否した。数だって、ホントにギリギリだったし、ラッピングの時に失敗して足りなくなったら、あたしはもう学校を休んじゃうと思う。
椅子の背もたれを使って体を弓なりにし、しくしくという言葉を声に出し、お兄ちゃんは拗ねた様子をわざとらしくあたしにアピールしてきた。
「わたしのを食べさせてあげるから困らせないの。こっちだって愛しい妹でしょう?」
あたしたちの会話をしばらく見守っていたお姉ちゃんが、おもむろにお兄ちゃんの傍らに立つ。いつの間にか切り分けた自分のガトーショコラは、さっき寝かせたほうが美味しいと楽しそうだったのに、躊躇なくナイフを入れたみたいだ。指で摘まんだそれを、弓なりで上半身だけ仰向けのお兄ちゃんの口に放り込んだ。
「あ~。ふわふわして美味しいなぁ」
「そう?明日はもっと美味しいのよ」
満足したのか、お兄ちゃんは二階の自室に帰っていった。