甘やかな螺旋のゆりかご
お兄ちゃんを見送ったお姉ちゃんは、指についたガトーショコラの欠片を頬染めて見つめた。
あたしは自分のガトーショコラを気にするふりをして、お姉ちゃんには目を向けなかった。
お姉ちゃんの行動には、気づかないふりをした。
見てはないけど、お姉ちゃんはきっと、その指についた欠片にキスをするだろう。そうして、その欠片を自分の唇と舌で舐めとるのだ――愛しい想いを、少しだけ表に出して。
お姉ちゃんがお兄ちゃんにガトーショコラを放り込んだとき、お兄ちゃんの唇は、お姉ちゃんの指を触っていった。
お姉ちゃんは、だから、愛しそうに、自分の指に自分の唇を添わせたのだ。
キスを、しているかのように。
現実では絶対にありえない、お兄ちゃんとのキスを想像して。
お姉ちゃんは、ずっと昔から、お兄ちゃんのことしか好きじゃない。
もうそれは呪いのようだと、お姉ちゃんは幸せに微笑んでいた。
「もう少し冷めたら冷蔵庫入れて寝ちゃおう。これくらいは手を貸すから、先に寝てもいいのよ?」
「――ううん。最後まで、自分でする」
「そっか。じゃあ、蜂蜜入りのホットミルク作ってあげる」
専用のミルクパンで、お姉ちゃんは牛乳を温めてくれる。
「レンジでいいのに」
「さっき、色々気遣ってくれたお礼よ。子どものくせに生意気」
「子どもじゃないもんっ」
「ふふっ。そうね、ごめんなさい」
そうして、コンロの方を向いたまま、お姉ちゃんは柔らかい声であたしにお礼をしてきたんだ。