甘やかな螺旋のゆりかご


――……いつからだっただろう。


お姉ちゃんに、直接口にしてしまったのは一年くらい前。


でも、感覚としてなら、もっと前から、あたしは知っていた。気づいていた。感じていた。


いつも優しいお姉ちゃんは、お兄ちゃんには殊更愛情を注いでいた。両親の前では、いいや、お兄ちゃん以外の誰の前でもその愛情を晒すことなく、密かに秘かに、ずっと想いを抱いてきた。想い人当人は、そんなことに気づきもしない。


あたしが知ったのは偶然だった。幼いあたしに油断したんだろう。あたしがお兄ちゃんの腕枕で眠っていたとき、同じく寝ていたお兄ちゃんのことを、お姉ちゃんは見たことない熱を孕んだ表情で見つめていたから。寝ぼけ眼だったあたしは、幼いなりに何かを察知して再び目を閉じた。


大きくなって、あたしはその時の表情が、欲情だと理解した。


ずっと言わなかったのは、家族が壊れるかもしれないという不安が幼心にあったから。


でも、お姉ちゃんはそんな崩壊を絶対に引き起こそうとはしなかった。


お姉ちゃんが大好きなあたしは、いつからかお姉ちゃんが可哀想な気持ちのほうが大きくなった。あたし自身が恋をしたからかもしれない。好きな気持ちは幸せで、少し強くもなれていいことも多いけど、辛いことだってたくさんだ。


……加えて、お姉ちゃんの恋は、報われないそれだ。


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