あと少しの恋
ちょうど会話も途切れたところで由貴さんが帰ってきた
「ほら」
投げ渡されたタバコに早速、火をつける
由貴さんはカウチに座り缶ビールを開ける
私は間に座りながらお茶を一口飲んだ
「鈴おいで」
「鈴来いよ」
私は悩んだあげく動けずにいた
「由貴、俺は守ったんだよ
けどな間に合わなかった」
「おまえが死ねばよかったんだよ」
「じゃあ俺はどうすればよかった?」
「俺はただおまえを認めたくないだけだ
ガキなんだよ」
「ガキ扱いすんな」
「ガキだろ?」
ぎりっと奥歯を噛む
「帰る」
「病院まで送る」
「戻るわけねぇだろ」
希瀬さんは寂しそうに笑って体をひきずるように歩きだす
引き留めとけばこうはならなかったのに
悔やんでも悔やみきれない
聞こえたのは悲鳴と救急車のサイレン
希瀬さんが飛び降りたのだ
私は靴も履かずにとびだしていた
急いでマンションの駐車場に向かった
「希瀬さん」
血だまりの中、伸ばされた手は私の頬を滑る
「なんで···泣いて···んだよ」
「泣くよ泣かないわけないじゃん」
「幸せ···にな」
手がパタリと地面に落ちる
「ヤダ希瀬さん···
目あけてよ···」
駆け寄ってきた由貴さんが私を抱きしめる
「由貴さん希瀬さんが希瀬さんが
私まだちゃんと謝ってない」
ぽんと頭を撫でられたけど希瀬さんのとは違う
「鈴、落ちつけ」
「だって希瀬さんが死んじゃうんですよ」
「俺がさせないから」
由貴さんは私を無理やり車に押し込むと急発進させて救急車の後を追う
私はただ子供のように泣きじゃくり病院に着く頃には涙も涸れていた
病院に着くなり救急隊員の人が輸血の人を募っていた
「由貴さん?」
「行ってくる心配するな」
長い長い時間が過ぎた気がした
いつの間にか朝になっていて私は看護士さんに揺すり起こされた
「あっ···ごめんなさい」
「いいのよ
それより彼氏さんの病室に連れて行くわね」
彼氏?希瀬さん?由貴さん?
私は病室のドアを開けた
由貴さんがゆっくりとこちらを見る
「希瀬さんは?」
「まだ意識が戻らない」
それは予断を許さないということ
由貴さんはコーヒーを飲んでくると行ってしまった
「希瀬さん···ごめんなさい」
小さく呟いたつもりだった
「聞こえ···ねぇよ」
えっ?酸素マスクごしに確かにくぐもった声が聞こえた
「希瀬さん?」
「なんでおまえは俺の名前をいつもいつも呼ぶんだ?」
「良かった生きてて」
「質問に答えろ」
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