蕾の妖精たち
 林間学校は、出資者から集めたお金で実施される、恒例の学校行事である。

 簡単に言えば、山へ行って、食事を作り、キャンプを張って、たった1泊を過ごすというものだ。

 受け入れるキャンプ場も毎年同じで、水道、電気が完備され、トイレは勿論、調理場から食材まで用意されている。

 キャンプを張って、料理するだけ、と言っても差し支えない施設は、引率の教師達にも、ある意味、息抜きとなる。

 当日、バス1台に1クラスの生徒と、引率の教師1名が乗り込み、学校を出発する。

 クラスは4つあり、4台のバスが連なって、校門を出ていった。


 ◇


「翠川です。榊先生、今、宜しいでしょうか」


 翠川は自宅待機の身であったのだが、林間学校の前日の晩に、自宅にいる舞子に連絡を取った。


「やめて下さらない、その榊先生って仰るの」

「すみません」

「今、シャワーを上がったところなの。だからバスタオル一枚。ねぇ、こちらにいらしてお話しません?」

「困ります。僕は謹慎中の身なのですから」

「それなら、解けるわ」

「本当にすみません。ところで、さっき気付いたのですが、相川幸乃から手紙が届いたのです」

「手紙?」

「そうです。手紙です。相川自身の手で、私の自宅に投函したようなのです」

「孝之の家まで行って、直接出した手紙……、それでなんて書いてありますの?」

「全ては言えません。でも、相川幸乃から目を離さないで下さい」

「どういう意味? もう少し教えて下さらないと」

 
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