らぶ・すいっち
「どうして私のこと、名字で呼ぶんですか?」
「あ……」
驚く私を見て、須藤さんは怪訝そうに顔をしかめた。
どうやら私が意図的に名字で呼んでいるというのがバレてしまったのだろうか。
鋭い視線を向ける須藤さんに、私は早々と降参した。
実は彼女を名字呼びするのは、理由があるから。
本当は名前で呼びたいところなのだが、それができない事情があるのだ。
それを彼女に話したら、どんな反応をするのだろう。
興味はあるが、はてさてどうするべきか。
「その様子だと、わざと言っていると思って間違いないですね」
「……」
凄みのある顔をして私に迫ってきたかと思うと、突然その均衡は崩れた。
「須藤さん……?」
「こんなふうに泣いても……須藤さんって呼ぶんですね。名前で呼んではくれないんですか? 順平先生」
ポロポロと涙を零す須藤さんを初めて見た。だからこそ、どうしていいのかわらかなくなってしまう。
私は慌てて彼女を抱きしめた。
「そうやって誤魔化しても無駄ですよ?」
「……」
「付き合い出して……少し経つけど、一度も私の名前を呼んでくれないんですね。それは他人行儀だということですか?」
時折しゃくり上げながら訴える須藤さんを、申し訳なくてギュッと抱きしめた。
私は、キレイな黒髪を手で梳きながら謝罪の言葉を口にした。