らぶ・すいっち
「えっと……書類の不備ではないとなると、なんですか?」
人と一緒にいるときに沈黙が続くことが苦手な私は、早速白旗を振り、順平先生に話を振ってみた。
だが、私の問いには答えず、順平先生は冷蔵庫から大根の切れ端を取り出した。
それは今日の料理教室で使ったもの。今日は付け合わせの一つとして菊花だいこんを作ったのだ。
しかし、料理音痴を自他ともに認める私にとって、そんな繊細な包丁さばきができるものか。否、出来るわけがない。
なので、あまりに無残に切り刻んでいく大根を見て、おば様たちは哀れに思ったのだろう。
皆さんに手伝ってもらいながら ——— ほとんどやってもらったけど ———菊花だいこんをこしらえたのだ。
「居残りです」
「……」
「君ひとりで、君の手でだけで出来なくては意味がない。そうでしょう?」
全くもってその通りです。そのために料理教室に通っているのですから。
しかし、順平先生には見つからなかったと思っていたのに、しっかりと見ていたらしい。
肩を竦める私に、順平先生は淡々とした様子だ。だけど、今までこんなふうに居残りまでしたことはなかった。
授業中にイヤミの応酬なんてことはしょっちゅうあったが、こうして時間外にマンツーマンで教えてもらったことは今まで一度もない。
戸惑う私に、順平先生は困ったように息を吐き出した。