それは、一度終わった恋[完]
「まだ付き合って2週間なのに結婚を毎日迫られるのは辛いって言ったらビンタされてふられたよ」
「に、2週間……?!」
それはさすがに……と苦笑いをしていると、一之瀬さんが落ち葉を踏みしめながらこちらに近づいてきた。
私はすぐさま一歩後ろに下がったが、すぐに彼の声が私の動作を止めた。
「逃げるなよ、澄美」
いつにもまして真剣な重低音の声が、私の足を止めた。
ひとつの街灯と月だけが私たちを照らしている。
まだ5m先にいるあなたの顔は、よく見えない。
「こっちはな、澄美を養うためなら社畜になったっていい、そんな覚悟で社会人になったんだ。それなのに、お前は突然理由も言わずに連絡を絶った」
落ち葉を踏みしめる乾いた音が、少しずつ近づいてくる。
「最後に澄美とキスをした時、澄美が今にも泣きそうな顔をしてた理由を、俺はこの2年間ずっと悩んで、頭を抱えてた」
「そんな……なんで……、私はもうとっくに私のことなんて」
「お前に分かるかよ、最後に見た彼女の顔が今にも泣きそうな顔だった時の男の気持ちが。その理由を何度聞いても話してもらえなかった男の気持ちが」
秋風に吹かれている枯葉のように、彼の言葉が震えている。
彼の息遣いがわかる距離まできて、やっと彼がとても苦しそうな表情をしていることに気づいた。
「わかんのかよ、お前に……」
――嘘だ。どうして。なんで。
こんなに彼が苦しんでいるなんて、思わなかった。
こんなに彼に思われていたなんて、知らなかった。
きっと、私と会えなくなっても、あなたはそんなに困らないだろう、淡々と日々を重ねて行くだろう、そう思っていた。
でもそれは、違ったの?
あなたはずっと、苦しんでいたの?
「ごめん……なさい……」
「澄美、俺は謝って欲しいわけじゃない。話して欲しいんだ、離れた理由を。俺は、もしかしたら澄美を知らないところで傷つけてしまってたんじゃないかって、ずっと……」
「それは違う!!」