それは、一度終わった恋[完]
私は思わず一之瀬さんの肩を掴んでしまった。それから、首を何度も横に振った。
「違うよ……あなたは何も悪くない……」
「じゃあ、何があった」
彼の瞳に気圧されて、私は話すことを決意した。
「い、一之瀬さんが……キスされてるのを、見ちゃったの……」
「待てよ、本当に身に覚え無いんだけど」
「幹部交代合宿で飲まされて、一之瀬さん潰れてたから……」
そこまで言うと、一之瀬さんは目を見開いたまま思考を停止させていた。
私は、ずっと閉ざしていた、言ってもどうしようもないことを、たどたどしくも言葉にした。
「一之瀬さんに言っても、どうしようもないことだった……っ、暗くてはっきり見えなかったから、確信を持ってその女の子を責めることもできなかったっ……、もうどうしようもなかったっ……」
「澄美……」
「一之瀬さんのことが好きなのに、一之瀬さんと一緒にいると、あの時のことを思い出して辛くなったっ……、一之瀬さん、私はどうしたら良かったんですか、あの時、どうしたら正解だったん……」
「もういい、澄美」
気づいたら、一之瀬さんに抱きしめられていた。
泣きたくなるほど懐かしくて優しい彼の匂いが、胸を焦がした。
「そんなに、苦しい思いをしてたんだな、澄美は……」
――どうして、どうしてあなたが泣くのでしょう?
あなたは何ひとつ悪くないのに。
どうしてあなたが泣くのでしょう。
あなたの綺麗な涙を見たら、急に自分の涙腺が緩んで、あの時泣けなかった分の涙も堰を切ったように溢れ出した。
「どうして、稔海さんが、な、泣くんですか……やめて下さい、う、うつりますからっ…」
「ごめん……、ごめん、澄美」
「だから稔海さんは何も悪くないですって……わ、私の方こそ今まで苦しめてごめんなさい……っ」