濃紺に染まる赤を追え。




会話はそこで途切れ、再び雨の音を聴覚の端で捉えていた。

流れる沈黙が、不思議だった。

やっぱりここだけ異世界のようで、時を忘れてしまいそうになる。

どれだけ雨に濡れても、不快感は覚えなかった。

前髪からしたたった雨粒が、頬に落ち、顎へと伝い、膝小僧にぶつかった。



すると。




「……あ、分かった」


不意に、ぼそりと呟くように動いた桐谷の口。







刹那、雨音が消えた。







引かれた手首。

バランスを崩して、それこそスローモーションのように倒れ込んだ先、視界はグリーンで埋まる。

突如訪れた温もりに、思考は真っ白になる。







「一緒に傘に入ればいいんだ」




くぐもって聞こえる囁きは、すぐ耳元で響いた。







< 106 / 192 >

この作品をシェア

pagetop