濃紺に染まる赤を追え。
会話はそこで途切れ、再び雨の音を聴覚の端で捉えていた。
流れる沈黙が、不思議だった。
やっぱりここだけ異世界のようで、時を忘れてしまいそうになる。
どれだけ雨に濡れても、不快感は覚えなかった。
前髪からしたたった雨粒が、頬に落ち、顎へと伝い、膝小僧にぶつかった。
すると。
「……あ、分かった」
不意に、ぼそりと呟くように動いた桐谷の口。
刹那、雨音が消えた。
引かれた手首。
バランスを崩して、それこそスローモーションのように倒れ込んだ先、視界はグリーンで埋まる。
突如訪れた温もりに、思考は真っ白になる。
「一緒に傘に入ればいいんだ」
くぐもって聞こえる囁きは、すぐ耳元で響いた。