暗闇の恋
私は目が見えない。
4歳の時お父さんと車で出掛けて事故に遭い、お父さんは死んで私は生き残った。
そのかわり、目が見えなくなった。
はじめは理解できなかった。目を開けてるつもりなのに、お母さんの声はするのに、見えないのだから。
でもお父さんの声がしないことはわかった。
お父さんの最後の言葉は
「あゆ…む…ごめん…」
その事は16歳になった今もお母さんには言えないでいる。
事故の記憶はお父さんの言葉以外全くない。
お父さんが死んでから、見えなくなった私をお母さんは一人で育ててきてくれた。
ずっと、迷惑をかけてきた分早く働いて親孝行がしたい。
こんな私になにができるかわからないけど…。

お母さんは目の見えなくなった私に将来何かの役に立てばとピアノを習わした。
自分で言うのもなんだけど、才能があったのかほとんどのコンクールを総なめにした。
けれどプロになるつもりはない。
この日本で、お母さんのそばで、子供たちにピアノを教えたい。
それが私の夢。

今朝の男の人の匂いと手の暖かさを思い出す。
「名前聞いとけばよかったな。」
「なに?なんか言った?」
「ううん、なんでもない。」
夕方迎えにきてくれた車の後部座席に乗った。
お母さんは決して私を助手席には乗せない。
事故に遭った時に乗っていた場所。
だから今では自分で後部座席に乗る。
窓を開ける。
風が気持ちいい。
もうすぐ、雨が降る。
「お母さん…洗濯干してる?」
「うん、なに雨降りそう?」
「うん。雨の匂いがする。」
「わかった。安全運転で急いで帰るわ。」
「どっちよ!」
二人で笑いあう。
目が見えないからなのか、鼻はきく方だった。
耳もいい。
見えないことは不便だ。
でも体の不便なのは対処ができる。
家の中でぶつからないようにタンスなど角がある物は保護されてる。
でも聞こえてくる偏見の声には対処ができない。
そう言った言葉を言う人は心から偏見をなくさなければならない。
だから、すれ違い様に言われても対処できない。
それが小声でも聞こえてしまう。
その面では耳がいいのは厄介だなと思ったりもする。
でも耳がいい分ピアノは上手くなれた。
あれ?ピアノをしてたから、上手くなったのかな…
「やだ!本当に降ってきた。歩の予想は百発百中なんだから…」
「間に合わなかったね。」
「また洗濯するだけよ!」
お母さんは明るく言った。
お母さんの明るいとこが好き。
この明るい性格にいつでも勇気づけられた。

家について中に入る。
「お母さん私はいいから、先に洗濯取り込んで!」
「わかった。」
私は脱衣所でタオルを取ると少し濡れた髪を拭いた。
お母さんが入ってきた。
「ほら、見事にビチョビチョ!」
手を伸ばして触ろうとする。
指先に冷たい感覚。
そのまま触るとグチャっと音がした。
「本当!すごいっ!」
「でしょ、すぐお風呂沸かすから先入っちゃって!」
「うん、わかった。その前に着替えてくるね。」
脱衣所を出て自分の部屋がある二階にいく。
その後お風呂に入って御飯を食べた。

「明日も雨なら送り迎えするからね!」
「あっいいよ。雨でも一人で行けるから。」
「…?なんかあったの?」
「えっなんもないよ!たまには雨の中行ってみたいなって思っただけ。」
「駄目よ。送り迎えするから。」
「わかった…。じゃお願いします。」

明日も会えるかなって思ったんだけどな…。
雨が降らないように祈りながら眠りについた。
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