【短】溺愛ショコラ
――『編集長!』
エレベーターの呼び出しボタンを押そうとした時、後方から掛かった女の声に、なぜか工藤も木戸と一緒に振り向いた。
そこには、木戸を追っかけて走っていたのか、息を弾ませて、両腕で重そうなファイルを抱えている女が立っていた。
『おー、宮野。どうした?』
『あっ、あの、その……木下先生の原稿、上がりました。』
『ご苦労。……それだけか?』
木戸と仕事の話をしている宮野と呼ばれた女を、工藤はマジマジと観察する。
大きな瞳と、白い頬、ぷっくりとした柔らかそうな唇。
パンプスを履いているのに、160はない低い身長。
男なら、この女を目の前にして守ってやりたいと思ってしまうような、小動物系。
好きな食べ物は……ヒマワリの種か?――なんてな。
『いえ、あの……木下先生から、新作のプロットを預かりました。』
『!え……あの木下先生からか?』
『?……はい。新作は我が社に上げてもいいと、先ほどいただきました。』
女の手から木戸に渡される青のファイル。
へぇ……木下先生が直筆原稿で執筆するっていう噂は本当だったのか、と工藤は呆然と思うだけだった。