清掃員と経営者
昨夜の飲んでいたバーはこのホテルの1階にあった。泊まった部屋はシングルでチェックインをした記憶が無い。
瑠美は恥を忍んでルームキーを返却しながらフロントの女性に聞いてみた。
「あの…昨夜はその…すいません。」
「とんでもございません。お寛ぎ頂けましたでしょうか?」
「はい。それで…少し記憶が曖昧で…」
「左様ですか。お連れ様とご一緒でしたが、ご利用はお一人様とのご用命でしたので、その場で一泊分の料金をお連れ様より頂いております。」
「お連れ様…?そうですか。」
記憶が曖昧とは恐ろしい。
その“お連れ様”って誰れですか?なんて聞ける訳もなく、ホテルを出た。
エントランスを抜け、駅へ向かう。仕事は休みだ…いや、無職になったのだ。
家に帰って就活しなければと考えながら、今日に限っては仕事が無い事を有り難く感じる瑠美だった。
ホテルの前に一台の車が止まり、瑠美が駅に向かう様子を見送るとそこから走り去った。