小さなキミと
踵(きびす)を返して走り出そうとしたそのとき、

「待てよ!」という焦った声が聞こえたと同時に、強い力で腕を後ろに引っ張られた。


振り返るとその正体は……言わずもがな服部。


何か言いたげな、慌てたような顔をして、あたしの手首のあたりをきつく握りしめていた。


嫌だ。

なにも聞きたくない。


「放せバカッ」


逃げたい、その一心で、思いっきり腕を振る。

お願いだから放して。


「おま、落ち着けって」


放してくれないどころか、握る手にさらに力を込める服部。

痛みで手が痺れるほどに。


再び悲しみがこみ上げて、じわりと涙が滲(にじ)み、視界の服部がぼやけて見えた。


「はな……放してよぉ……」


振り払う気力も失せて、力なく腕を下ろしたあたしの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


人前で泣くなんて……しかもコイツの前で。

最悪……


拭っても拭っても、一旦溢れだした涙はもう止まらない。


「────っ」


服部がなにかを喚いたような気がするけれど、今のあたしはそれどころじゃない。


面白かったり楽しかったりした出来事を想像し、どうにかして涙を止めようと必死になっていた。

だけど浮かんだ色々な出来事には、何だかんだでいつも服部がいる。


あたし……マジで服部のこと……


「違うからっ」


ハッキリ聞こえたその声で、あたしは現実に引き戻された。

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