小さなキミと





廊下の突き当りの階段を下り、校舎1階の端っこの、進路情報室の前で服部は足を止めた。

そこはシンとしていて人気がなく、寂しげな場所だった。


それもそのはずで。


各学年各クラスの教室から、ここまでは少し距離がある。

普通球技大会の昼休みにまで、進路のことを考えている人はそういない。


2人きりという状況に、あたしは嫌でも胸が高鳴った。


服部は、黙ったままあたしの手首を解放した。


消えた温もりが、なんだか切ない。



「なに考えてるのか知んないけどさ……お前、圭に変なこと吹き込むなよ」


あたしに背を向けたままの、服部の第一声がこれ。

思わずキョトンとしてしまった。


んんん?

圭って、葉山くんのことだよね。


心当たりが全くないので、「なんのこと?」と素直に聞いてみる。


「いや、だから……あ、そうか。圭じゃなくて鳴海さんか」


返ってきたのは、答えになっていない独り言だった。


「あの、服部は一体なんの話を」


「だーかーらぁー」


言葉を遮って、クルッとあたしの方へ向き直った服部は、イラッとした口調で続けた。


「押し倒したとか、事実無根なことを鳴海さんにベラベラ喋るなって言ってんのっ」


白けた廊下に、服部の抑え目な怒声が小さく響く。


……えぇと、何のことだかさっぱりだけど、取りあえず殴っていいですか?

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