マネー・ドール -人生の午後-
 久しぶりに安定剤を飲ませて、真純は休憩室のソファで眠っている。
「何があったんですか」
さっきまで三好が座っていた場所で、山内は重く口を開いた。
どうしよう……山内には話してもいいだろうか……
「実は……さっき来た客な……」
 俺は、山内に全てを話した。真純も山内を信頼してるし、今は俺が何を言っても……

「最初に、聞いたでしょう。所長の仕事は理解しているのかと」
そうだった……
「なぜ、ちゃんと話さなかったんですか」
「……知られたくなかったんだ……」
山内は、呆れた顔で、俺を見た。
「それでよく、ここに呼びましたね」
「まさかこんなことになるなんて、思わなかったんだよ」
 俺たちはただ、俯いて、あの札束を見ている。
 金……こんな金……捨ててしまいたい……
「話すべきです。ちゃんと」
「なんて言うんだよ……こんな残酷なこと……言えねえよ……」
「下手に取り繕うほうが、彼女を傷つけることになりますよ。そして、依頼は断るべきです」
「そんなことして、真純のことが本当に噂になったら……」
「真実なんですか?」
「違うに決まってんだろ!」
「何が怖いんですか。ご自分の経歴に傷がつくことですか? それとも、事務所の評判ですか? お父さんの名誉ですか?」

 ……何も言えなかった。
 俺はいったい、何を守ろうとしているんだろう。

「真純が傷つくから……」
「もう傷ついてますよ。これ以上、傷を深めたくないなら、決断してください」
 山内は俺に無言の圧力をかけて、今夜はうちに来てもらいましょうか、と言った。
 真純と山内の嫁さんは仲が良くて、しょっちゅうお茶だランチだと、遊びに行っている。真純が友達と出て行くことなんて、今までなかったし、正直、俺はかなり安心していた。もうすっかり、落ち着いたんだと、油断していたのかもしれない。
 うじうじ悩んでいる俺に、山内はイライラした様子で、鳴った内線電話を乱暴にとった。スピーカーから、気まずそうな藤木の声が聞こえてくる。
「真純さんにお客様なんですが……」
「今は無理だ。帰ってもらえ」
「それが……あっ、あの……ちょっと……」
ドアが開いて……はあ、またこんな時にややこしい奴が!
「ご無沙汰しております」
 山内の顔が、みるみる不機嫌になって、負けずに田山も、むっとしている。
「では、私は失礼します」
 山内は聞こえそうなくらい、顔面で舌打ちをして、部屋を出て行った。

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