琥珀の記憶 雨の痛み
「あ、の、小日向彩――」

「ケイの代わりがこれかよ」


脅えながらも事前にもらったアドバイス通りにフルネームを言おうとした彩乃ちゃんに被せるように、ユウくんは冷たく一言。
彼女は結局、名前を言い切ることが出来なかった。


途端に俯いてしまった彩乃ちゃんが、入りたての頃の自分と重なる。
さすがにムカムカと込み上げてくるものがあった。


「だっさ。これから正社員になろうって人が、新人いびり?」

両手を腰に当てて、見下ろす。
とてもじゃないがユウくん相手に、ちょっと前の自分だったら出来なかったことだ。


たった1人の後輩のために私がしっかりしなきゃという使命感と、あの時自分がそれなりに傷つけられたことへの仕返しと。

認めたくはないけど、この1ヶ月くらいで少しずつではあるけどある程度分かってきた彼との、少しは軟化してきた関係性も手伝ったのだろうと思う。


「代わりじゃない。彩乃ちゃんは彩乃ちゃんよ」


何だか自分でも良く分からない主張だった。
彼女がケイの抜けた穴に補充されたのは確かだし、自分でも同じことを思ったことがあるはずなのに。

けど、鼻息荒く言い切った私をユウくんはぽかんと見上げて――、


「そうか」


その後に、口の中でもごもごと「悪いな」と付け足した。
彩乃ちゃんが聞き取れたのかどうかは、怪しいけれど。
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