琥珀の記憶 雨の痛み
「自転車?」

と聞かれ、首を横に振る。

「ううん、歩き。来る時、降ってたから」

とは言え大降りでもなかった。
学校がある日ならば電車は不便だから意地でも自転車で行っただろうけど、今日は休日で家から直接なので歩いた。


「ええと……そっちは?」

他のみんなとは少し離れてた。
誰も聞いてない。

だから、『尚吾くんは?』と聞こうと思えば聞けたのに、結局彼の名を口にすることが出来ない。


「俺、原付。取ってくるから、ちょっと待って――」

「……?」

待ってて、の言葉を途中で飲み込んで、彼はちょっと顎に手を当てて考え込む仕草をする。
不思議に思って見ていると、何かいい事でも思い付いたみたいにニカッと笑った。


「莉緒、一緒に来て」

「……へ? 駐輪場まで?」

「うん、それで」

と、声を潜めた尚吾くんの顔が耳元に近付いて、危うく悲鳴を上げそうになった。

ち、近い!


「そのまま反対側から出よ。みんなに見つからない内に」

「な……っ」


突然近付いた距離も、耳元に感じる声も、囁かれた内容も。
どうしようもなく、私を揺さぶった。


「ナツ、は」

辛うじて絞り出したその言葉が、好きな人と友達との狭間に落っこちた優柔不断で卑怯な私の、最後の抵抗だった。


「向こうは話盛り上がってるみたいだし、いいじゃん。たまには2人で帰ろ」

2人で、の誘いに、呆気なく陥落する。
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