琥珀の記憶 雨の痛み
――バレ、てた。

気まずそうに苦笑した尚吾くんは、ふいっと目を逸らすように伏せた。

「……ごめ」

「ん、別にいい。その代わり今日は、2人で帰ろ」

一瞬陰ったように見えた表情が、もう一度顔を上げた時には、柔らかい微笑みに戻っていた。


きりきりと胸が軋むように痛むのは、彼の甘い誘いに浮つくことに対する罪悪感、だけじゃない。

何にも思っていない相手からだって、避けられれば傷付く。
ユウくんが私に対してだけ冷たい、と思っていた頃、自分がそうだったように。


尚吾くんへの気持ちを吹っ切ることも出来ないくせに、ナツのためと偽善者ぶって口では協力するようなこと言っておいて、結局ずるずると気持ちを引きずったまま何も出来ていないのに。

その裏で、気付かない内に好きな人の心まで、私が傷付けていたんだ。


「しょ――……」

出かかった名前は、やっぱり途中で消えた。
中途半端。

どちらも失いたくなくて、選べなくて。
二兎を追う者は――だ、まさに。

尚吾くんには、私が何を言いかけたのか分かっているんだろう。
浮かんだ笑いには複雑な感情が織り交じっているようで、奥の奥までは覗けない。

ううん、自分が見せないのに、相手の奥だけ覗こうなんて考え自体が甘いんだ。


「醤油、買うんだっけ」

わざとなのか、からかうようにそう言って、尚吾くんはククッと笑いを噛み殺した。
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