琥珀の記憶 雨の痛み
俯いて黙った私に気付いて、尚吾くんは覗きこむようにして「どうした?」と声をかけてきた。


「莉緒? どっか痛い? 大丈夫?」

「ごめん、なんでもないよ」

「……そう?」

「ん、続けて?」

無理矢理笑顔を作って先を促すと、彼は少しだけ首を傾げた。


それから何を思ったのか、片手を伸ばして来て私の頭にぽん、と触れる。
ほんの一瞬だけ。

温もりを感じる暇もなく、その手はすぐに離れた。


……痛いよ。
心臓が。胸が。こころが、痛い。


『そしたらナツが』……その続きを聞くのは、怖い。
けど、知らないままいるのも、怖くて。

ナツと直接、本音をぶつけて話す勇気も出ないクセに。
こうやって本人のいないところで彼女のことを聞こうとしている、狡い自分とか。


こんな状況なのに。
尚吾くんが私を気遣って、一瞬だけ触れてくれた手が嬉しい、と思っている自分とか。


ほんと、嫌だ。
キライだ。
大っ嫌いだ。


「ナツは……なんて言ったの?」


私はいつからこんなに、欲張りになったんだろう。
欲しいものを我慢するのも、欲しくないフリをするのも、小さい頃から慣れっこだったはずなのに。
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