琥珀の記憶 雨の痛み
『そういう話』――、確かに、してたんだけどね。
でもまさか本人目の前に説明も出来ないし、心のざわつきは全然治まらない。


あの日ナツは尚吾くんのことが好きだと言って。
私には『どっち狙い』かと聞いて。
私は質問には答えずに――、ナツに協力すると、言ったのだ。


忘れたわけじゃない。
あの日、この人のことを、諦めようと決めたことを。
ナツに協力しようと、決めたことを。

忘れたわけでは、ないのだ。


「ナツが言ってたこと俺がバラしたって、本人には言うなよー?」

と、尚吾くんは、まるで秘密の共有を楽しむような悪戯っぽい笑顔を見せる。

それから不意に、真剣な顔つきに変わった。


「でも、誤解は早めに解いときな。あれ、放っておくとその内噂立つよきっと」

本気で心配してくれてる目に覗きこまれて、私はこくんと頷いた。
彼はじっと見つめてそれを確認してから、「よし」と一言、にこりと笑った。


それからしばらく会話が途切れて、無言で歩いた。

以前は会話が途切れることなどなかったからか、それとも言えずに抱えているものがあるせいか、ナツに対する後ろめたさなのか。

沈黙は少し、居心地悪かった。


隣に並んでいたのを、意識して半歩、後ろにずらす。

ナツや彼の誤解に便乗してユウくんのことを好きなフリすれば良かったのか、と思っている、他人事のようにどこか冷静なもう1人の私がいた。
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