琥珀の記憶 雨の痛み
最後の信号を、ゆっくりと渡った。
この先車通りのない静かな住宅街を抜けた先の角を曲がったら、もううちのマンションに着く。

早く、着いて。
もう、終わりにして。
そう思ってる、つもりだ。

意図的に歩くペースを落としているのが、尚吾くんなのか自分なのか、分からなかった。

纏わりつくような霧が雨に変わったら、泣いても気付かれない、だろうか。
そんなことを考えたけど、家に着く前に天気が変わる気配はなかった。


「莉緒が気にしてるのは、ナツ……なんだね」

探られないように、目を閉じて。
彼の質問は、聞こえなかったフリをした。


ナツが告白したわけじゃないのは、分かってる。
もしそうなら彼はこんな回りくどい質問はしてこないし、ナツの方からも私にそういう報告が来ないわけない。

ナツの彼に対する言動や、私の不審な行動を繋ぎ合わせて、彼は気付いた――『勝手にそう思い込んだ』。


私がここで否定しないのは、ナツに対する、裏切りなんだろうか。
――多分、そうだ。

分かっているのに、首を横には振れなかった。


望んでも、雨は降らなくて。
だから、泣くことも出来ない。

天気が言ってるみたいだった。

尚吾くんがくれた免罪符に甘えて、自分を優先してナツを売った私に、泣く権利なんかないんだと。


「俺デカい独り言吐くけど。ただの勘違い馬鹿かもしんないけど、気にしないで」


嘘を吐いて、上手く誤魔化すことも出来ない。
耳を塞いで、彼の言葉を聞かずに立ち去ることも出来ない私には。


「彼女の気持ちに応えるつもりは、俺にはないから」
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