琥珀の記憶 雨の痛み
道の、左側は家。
昔からある、古めの一軒家が隙間なく並んでる。
車庫のシャッターが下りてて、横を通り過ぎるとカタカタと音が鳴った。

右側は塀で、その向こうにあるのは、子どもの頃から何のためにそこにあるのか謎だった竹林だ。
風が吹いてる。
笹の葉が揺れて、互いに触れあっては鳴いていた。

2本奥を横に走る通りは大きな県道だ。
私が小学生の頃に開通したから比較的新しめの道だけど、今はこの辺りを南北に繋ぐ主要道路になっている。
多分そこを走ってるんだろう、バイクかなにかが加速するエンジン音がここまで届いた。


意識して耳を澄ませば、静かな住宅街とは言え聞こえる音は沢山あるのに。

尚吾くんの最後の言葉だけが耳に残って、頭の中で、何度も繰り返していた。


「――ごめん、どうしていいのか分からない。俺、莉緒を困らせてるだけなのかな」


それは『独り言』ではなく『質問』に聞こえたから。
私は条件反射のように、首を横に振っていた。

困ってるのは確かなのに。
彼が謝ることじゃ、ないから。


尚吾くんは、くしゃりと顔を歪めて無理矢理笑った。
小さな声で呟いたのは、今度は本物の独り言だったのだと思う。
でも、聞こえてしまった。
『困ってくるクセに』と。

どうしていいのか分からなくて、私もなんだか曖昧な作り笑いを浮かべたのだと思う。


もう、すぐそこの角を曲がればマンションが見える、という辺りだった。
そこで不意に立ち止まった彼は、手を伸ばして、私の手首をぐいっと引いた。
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