琥珀の記憶 雨の痛み
興奮したまま家までを急いだ。


ナツのことを考えてマイナス思考に陥るよりも、尚吾くんがくれた言葉のひとつひとつを反芻してドキドキしていた。

言葉を、視線を、表情を、触れられた頭や、掴まれた腕に残された熱を思い返しては。
思い違いなどではないと、何度も確認しながら――、ドキドキ、していた。


実ることのない、伝えることすら諦めることを決めた初恋は辛くて苦しくて、悲しいだけのものだと思っていたのに。
彼は一言も、好きだとか付き合おうなどと言ってくれたわけではないのに。


尚吾くんも、私に恋してくれてるんだと。
浮かれていた。
幸せだと感じていた。

恋はやっぱり思っていた通りに、ふんわりと甘くて優しくて、幸せなものだったと。


友達に嘘を吐いて、騙して、裏切っているのだと、ナツのことを考える余裕は、私の頭の中になかった。
彼女の気持ちを知った時からずっと付き纏っていた憂鬱など、どこかに吹き飛んでて。

きっとすぐ先に訪れるだろう、尚吾くんとの幸せな未来に期待ばかりを膨らませていた。
馬鹿みたいに。


家に帰ると何かタイミングが悪かったのか、お母さんは少し不機嫌そうだった。


「最近遅いんじゃないの」

小言を言われたけれど、気にもならなかった。

確かにユウくんとあそこに残るようになってから何度か門限を過ぎてしまったけど、今日は間に合ってるし。
それに、きっともうそんなことには、ならないんだから。
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