琥珀の記憶 雨の痛み
「あんた――」
「な……に、よ」
駐輪場の2階の鉄板を叩く雨粒の音と。
その通気孔を抜け塊になって落ちてくる雫が叩く傘の音と。
屋根から出た先に見える雨のカーテンが、互いに擦れ合いながら落下してくる音。
雨の音しかない世界に、その人の嘲るような言葉が、よく響いた。
「昨日一晩でナツを切ることに決めたわけか。思ってたよりもしたたかだな。おめでとう」
――『おめでとう』は祝福の言葉なはずなのに、夢の中で聞いたのとはあまりにも違って響いて。
頭が、真っ白になった。
尚吾くんを名前で呼んだ――、それだけで、昨日何があったのかなんてユウくんに全部分かるわけがない。
だから多分、微妙に間違った解釈をされた、気はするけど。
『ナツを切る』
誰かの口から言葉にされて聞かされて、漸くそれはリアリティをもった。
痛感した。
彼が言ったのは、事実だ。
ぼた、ぼた、と冷たいものが頭や肩を濡らして、意識を引き戻した。
傘が足元に転がっていることに気付いて、自分がそれを落としたんだということは遅れて理解した。
「何。もしかして無自覚だった? おめでたい女だな。昨日あいつに抱かれでもしたか。ずっと逃げ回ってたクセに一晩でころっといくなんて、そんなに良かっ――……おい」
貶めるような言葉を途中で止めて、妙に焦った様子のユウくんが私の顎に手をかけて上を向かせた。
ユウくんは舌打ちしてから、目を逸らした。
自分が泣いてることに気付いたのは、その時だった。
「な……に、よ」
駐輪場の2階の鉄板を叩く雨粒の音と。
その通気孔を抜け塊になって落ちてくる雫が叩く傘の音と。
屋根から出た先に見える雨のカーテンが、互いに擦れ合いながら落下してくる音。
雨の音しかない世界に、その人の嘲るような言葉が、よく響いた。
「昨日一晩でナツを切ることに決めたわけか。思ってたよりもしたたかだな。おめでとう」
――『おめでとう』は祝福の言葉なはずなのに、夢の中で聞いたのとはあまりにも違って響いて。
頭が、真っ白になった。
尚吾くんを名前で呼んだ――、それだけで、昨日何があったのかなんてユウくんに全部分かるわけがない。
だから多分、微妙に間違った解釈をされた、気はするけど。
『ナツを切る』
誰かの口から言葉にされて聞かされて、漸くそれはリアリティをもった。
痛感した。
彼が言ったのは、事実だ。
ぼた、ぼた、と冷たいものが頭や肩を濡らして、意識を引き戻した。
傘が足元に転がっていることに気付いて、自分がそれを落としたんだということは遅れて理解した。
「何。もしかして無自覚だった? おめでたい女だな。昨日あいつに抱かれでもしたか。ずっと逃げ回ってたクセに一晩でころっといくなんて、そんなに良かっ――……おい」
貶めるような言葉を途中で止めて、妙に焦った様子のユウくんが私の顎に手をかけて上を向かせた。
ユウくんは舌打ちしてから、目を逸らした。
自分が泣いてることに気付いたのは、その時だった。