琥珀の記憶 雨の痛み
縋るように言いかけた言葉に、被せるようにまたため息が吐き出されて。

「あー、もういい、忘れな。いいから帰れよもう。どっちにしろ憐れだから、アイツは」

面倒くさそうに早口に言うユウくんは、こっちを見ようとしない。

「だから、なんでっ」

気が付いたら、切羽詰まってにじり寄っていた。


憐れ、と繰り返されるよりも、突然帰れと言い出されたことの方に私は慌てふためいていたのかもしれない。
だってこの人が話すら聞いてくれなくなってしまったら、私、もう誰に吐き出せばいいのか――、


「あんたが」

「え」


――私から傘を傾けない限り、彼が自分からその中に入ってくることなど一度もなかったから。
ずいっと迫られて急に縮まったその距離に、狼狽えた。

思わず一歩後ずさる。
ユウくんが傘を持つ私の手首を掴んで、その勢いで傘は少し後ろに傾いて。

かつん、と音がした。
傘の骨が駐輪場の支柱に当たった音だ。
これ以上さがれない……近い。


至近距離から見下ろしてくる冷たい目が怖くて、喉がごくりと鳴った。

構えたところに降ってきた言葉は、けど、全く予想外の方向から私をガツンと叩いた。


「鈍感な上に、処女だからだよ」

「な……っ」


しょ……、はっ!?
いきなり何言って――

言葉が出ない。
パクパクと口を開閉するだけの私は、どれだけ間抜けな顔してただろう。


「なんで分かった? みたいな顔してんじゃねえよ、丸出しじゃねえか」


ユウくんは口元を押さえて少し顔を背けた。
笑いを噛み殺した、つもりなんだろうけど、手の隙間からは無遠慮にククッと声を漏らしていた。
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