琥珀の記憶 雨の痛み
「それ以上濡れるなって言っただろ」

呆れたようにそう言われて、また傘を、拾われた。
受け取れずにいる私に、ユウくんは顔をしかめた。


「見ねえよ馬ー鹿。お前の貧相な身体になんか興味あるかよ」

乱暴に頭を叩かれて、睨みつけると目を逸らされる。
ユウくんはそのまま顔を背けて、傘を持つ手だけをこっちに伸ばした。

「さっさと取れ。俺は傘が嫌いだって言ってんだろ」


片手で胸元を覆い隠したまま、恐る恐る手を伸ばして傘を受け取る。
彼は本当にこっちを見なかった。


「着いて来い」

「……え?」

「全部ウソだから、そんなビビんな。送ってくから着いて来い」

そう言いながら、すたすたと歩き出す。

お、送る?
ユウくんが私を?
っていうか……

「ちょっ、うち、そっちじゃないんだけど!」

慌てて後を追いながらそう言うと、相当苛々しているのか、聞こえて来たのは今までで一番特大の舌打ちだった。


「っせーな、黙って言うこと聞いてろよ面倒くせえ! 何で俺がお前んちまで歩いていかなきゃなんねんだ。足取りに行くんだよ足!」

「あ、あし? いいよ別に、送ってなんか。1人で――」


言いかけて途中で止まったのは、ギロリと睨まれて飲まれたから、だけではない。
彼が振り返った瞬間に慌てて胸元を押え直して、気付いたから。

彼が送ってくれると言った理由に。
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