琥珀の記憶 雨の痛み
濡れた身体が見えないように、傘をなるべく低く持って隠れた。
すっぽりと顔も隠れて、視界は狭まる。

ユウくんとは少し距離を置いたまま、言われた通りに後ろを歩いた。
水たまりの中を躊躇なく進んで行く踵だけを、見失わないようにして。


「分かりにくいよ……ユウくん」


降り続ける雨音がうるさかった。
けど、独り言みたいに小さく呟いた私の声がどうやら届いたらしいことは、彼の歩調の微妙な変化から読み取れた。


分かりにくいよ。

やな言い方で、変なことばっかり言う。
嫌われて疎まれてるのか、ただ馬鹿にされてからかわれてるだけなのか。

『全部ウソ』って、どこからどこまでが嘘だったの?
正しいことも言われたのは分かってる。
本音が混じっていただろうことも。

『全部』と一言でひと括りにされた言葉に惑わされて、ごちゃごちゃになって、判断が出来ない。


ただ今たったひとつだけ理解出来ているのは、この恰好のまま私1人で帰るのは危ないって、彼が心配してくれてるんだということだけだ。


「――別に、分かる必要ねえだろ俺のことは」

遅れて返ってきた言葉が、拒絶なのかどうかも、よく分からなかった。


激しい雨が容赦なく彼を叩いていてずぶ濡れなのに、気にする風でもなくペースを乱さずに歩いていく。
濡れる彼をいつもみたく自分の傘に入れようとは、出来なかった。


近付いたら濡れた身体を見られちゃうから、単にそれだけなのか。
『それ以上近付くな』というオーラを発している彼のせいか。
――理解出来ないものから逃げようとしている、これも自分の狡さのひとつなのか。

理由など、分からないのだけど。
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