琥珀の記憶 雨の痛み
徒歩5分と前に聞いていた通り、彼の家は店からすぐ近くだった。

当然駅からもごく近い立地なわけだけど、ここ数年の新開発地区からははみ出た古い寂れている方の商店街の裏手だ。

長い事シャッターが下りたままの八百屋やスナック、昔からころころとテナントが入れ替わる謎の雑居ビルの隙間。
「こんなとこに?」と言いたくなるような場所にある、築年数を聞くのが怖いくらいの古びたアパートがどうやら彼の住み家のようだった。


ところどころ文字が剥げた入居者募集のプレートは少し傾いていた。
とても人目につかなそうな場所と、この廃れた外観……プレートが真新しくて真っ直ぐに掲げてあったとしても、なかなか応募はなさそうだ。


アパートの裏の草だらけの空き地に打ち捨てられたような色褪せたおんぼろセダンの鍵を開けて、

「乗って待ってろ」

と言い残してユウくんはアパートの錆び付いた階段を上って行った。

ぽかんとしてその背中を見送る。
え。これ、ユウくんの車……?

免許――、と考えてから、彼はひとつ年上なのだから、年齢的には免許を持っていてもおかしくはないのだと気付く。

ただ、いくらおんぼろとは言え彼が車を所有しているというのはピンと来なかった。
ご両親か、上の兄弟のものだろうか。
それとも友達の……彼の交友関係なんか知らないけど、それもあり得る気がする。


「なんで乗ってねえんだよ」

「え、あ」

戻ってくるのが早い。
考え込んで車の横に立ったままだったことを怒られて、首を竦めた。


何しに行ってたのかと思えば、びしょ濡れだった服が上だけ変わってる。
傘はやっぱり差してないから、またすぐに濡れてるんだけど。

ユウくんは私にもタオルやらを持ってきてくれたみたいで、それをごそっと押し付けるとすぐに運転席に乗り込んだ。
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