琥珀の記憶 雨の痛み
注文して店先で待っていれば1個から揚げたてを買えるから、主婦層だけじゃなく、よく小・中学生くらいの子たちがおやつ代わりに買い食いしてたりもするお店だ。

閉店は7時前後。
小さな店だしその辺りはちょっと適当で、8時まで開いてる時もあれば6時前に閉まっていることもある。

今日は雨降りで客足も良くなかったろうから、きっと6時前後には店じまいだ。


つまり。
その店の春巻きが今ここにあるってことは、今日は母の帰りは早かったってことだ。


母は定時であがれた日には出来合いのお惣菜を買わない。
食卓の手作り率が低いことを、あまり口に出しては言わないけれど、こっそり気にしているみたいだから。


逆にお惣菜を買ってくるのに、わざわざ家で揚げたりもしない。
当然揚がってるのを買ってくる。

だって時間がないから出来合いを買うのだ。
揚げ物したあと油が散った台所のお掃除だって、時間を食うんだから。


何だか今日は、普段はしないことづくしで。
その言動のひとつひとつに、母の心情が表れているようだった。


「ほら、せっかく揚げたてなんだから冷める前に食べなさい」

「うん……ありがと」


揚げたての春巻きは、ホントに美味しそう。
けど、ありがたいし嬉しいけど、大喜びしちゃいけない気がした。

「たまにはいいかもねー、こんな贅沢も」


母に、『ごめんね』と言わせたくない。


働いていて普通の主婦よりも時間が少ないのは、父親がいないからだ。
時間がないから食卓には出来合いのお惣菜が増えるし、揚げ物なんか滅多に出ない。

それを、私は別に責めているわけじゃないのに。

――母は自分を責めている。
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