琥珀の記憶 雨の痛み
「あれねえ……離婚の話が出る、ちょっと前だったかしら。お父さんが出張のお土産に買ってきてくれたんだけど」

と、当時を思い返しながらも母は笑う。

出てきた話はとても笑えるような話じゃなかった。
なのに母は、心底可笑しそうに笑いながら話した。


「お父さん、レシートをごっそりお財布の中に溜めこむ人だったから。たまにお母さんが整理してあげてたのよ。そしたらなんと」

「……何?」

「お父さん、同じ店で琥珀をいくつも買ってたのよ。あれきっと、当時手を付けてた女の子たちに配ったんだわ!」

「うわ……最低」


むしろ、その時点で捨てない!?
なんでそんなに楽しそうに話すのか、意味が分からない。
それに、そんなものを私に託した意味も。


「でもほとんどが安物で、お母さんがもらったのはそこそこ高いのだって分かってたから、一応特別扱いはしてくれたみたいなのよ」

「いや……そういう問題かな」

「もう1個同じ値段のがあって、それは気に入らなかったけどね」


尚更最低じゃない! という言葉は、最早呆れてしまって口にする気にもならなかった。
その『もう1個』が、離婚の原因になった女に行ったんだろうか。


「捨てなかったのは別に、未練があったからじゃないわよ。物に罪はないし、高いものだから勿体ないでしょ」

母が冗談のつもりで言ったらしい言葉に、私は素で引いて不快感を顔に出した。

「いやだ、その金の亡者的発想。しかもそれを娘に譲り渡すかな」

すると母は一瞬固まって、それから気まずそうに視線を泳がせた。


あ――、違う。
お母さん、嘘吐いた。
きっと、『勿体ない』から捨てなかったんじゃない。

母のヘタクソな強がりとその下の本音が、その時なんとなく、見えた。
< 231 / 330 >

この作品をシェア

pagetop