琥珀の記憶 雨の痛み
「――戒め、よ」

降参したみたいに、小さな声で母はそう自白した。


「本当はそのレシートがきっかけで、離婚話に発展したの。だからあの石は……馬鹿な男に引っかかった過去を忘れないための、戒め。二度と同じ失敗をしないために」


ツキン、と、胸が痛んだ。
お母さんは、何にも悪くないのに。
もう愛してなどいない――、その言葉に嘘はないにしても、裏切られた傷は、なかったことになんかなってない。


「莉緒にあれをあげたのは、魔除けみたいなもんよ。もうお母さんは若い頃みたいに馬鹿じゃないし、必要ないかなって。その代わりにあんたが、そろそろ恋をしてもおかしくない年になったから……お守り代わり」


ああ。
そういう意味、で。

「分かりづら……」

「なんだと思ってたの?」

「――……別に」


――私とお母さんを、過去に縛り付ける重石だと。
とは、真相を聞いた後には、なかなか言いづらい。


「あんた、あれずっと鞄に付けてたのに、最近外したでしょ。もしかして、嫌だったの?」

「え、気付いてたの?」

「なくなったな、とは思ってた。失くしたのか外したのかは分からなかったけど……その様子だと、自分で外したのね」

「あるよ……バッグのポケットに。金具壊れちゃって」


本当は、引きちぎって壊したんだけど。
母は、私の小さな嘘を見破ったみたいに、少し笑った。


「別に、無理して付けとく必要もないわ。変な男に騙されさえしなければ……あんたがちゃんと幸せな恋、してるなら」
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