黒太子エドワード~一途な想い
「母上、ウィリアムって、ひょっとして、ウィリアム・マーニーのことですか?」
 黒太子エドワードがそう尋ねると、フィリッパは頷いた。
「そうよ。彼に、全員処刑する場合の出費を算出させるの。それによる、国外の反応による損失もね。数字を見せれば、説得しやすいでしょ? まぁ……エドワード地震は、あれでも『騎士道』とやらが好きみたいだから、馬鹿なことはしないと思うけど、下の者も説得する必要があるからね」
「なるほど……」
 確かに、庶民にとっては「騎士道」などというものより、「金」というもので損得を語られた方が分かりやすかった。
「王妃様、ウィリアム・マーニー様がいらっしゃいました」
 資金援助だけでなく、裕福な商人に紹介したりしていたこともあって、彼は呼ばれるとすぐに彼女の元に来たようだった。
 侍女リリーの声にフィリッパと黒太子エドワードが振り返ると、そこには彼女と年がそう変わらないような好青年が立っていた。
 背がある程度高く、肌艶もいい、笑顔の青年が。

「何だと? 全員処刑……?」
 一方、カレーの街に戻ったユスターシュ・サンピエールは、広場で囲まれ、したくもない報告をしていた。
「いや、まだ処刑と決まったわけではない! 身代金をとるという選択肢もあるのでな!」
 ユスターシュが懸命にそう言うと、広場に集まった者は顔を見合わせて、不平を言い出した。
「そりゃ、あんたのように金持ちだったら、そういう選択肢もあるだろうさ! けど、わしらには、そんな余裕など、無い。だったら、殺されるのを待つしかないじゃないか!」
 その叫びに、他の市民も乗っかり、「そうだ、そうだ!」の大合唱となった。
「分かった! 分かったから、鎮まってくれ! 明日、もう一度、交渉に行ってくるから!」
 ユスターシュがそう叫ぶと、集まっていた群集の一人が叫んだ。
「信じられるものか! どうせ、一人で逃げるつもりなんだろう!」
「そんな……! そんなことをするつもりなら、此処にわざわざ戻って来るものか!」
 ユスターシュの心からのその叫びに、一瞬、広場は静まり返り、皆、彼を見た。
 だが、それも長続きはしなかった。
「わしらを絶望のどん底に突き落としておいて、混乱しているうちに逃げようって魂胆じゃねぇだろうな?」
 誰が言ったのか分からないが、誰かがそう言うと、一同は一斉にユスターシュを見た。
「そうだ、そうだ! 信じられるか!」
「一人で逃げさせるな!」
 だが、すぐにそう言う声が上がり、広場を支配したのだった。
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