四神転送
通学路である道筋を歩きながら、弾はため息をついた。
別に、父親が死んだ事を今も悲しんでいる訳ではない。
(俺には、カーチャンがいるからな…)
ただ、父親の話をしている時の…つとめて明るく話そうとしている母親が見ていて辛いのだ。
弾は知っている。
自分が寝静まった夜中に、決まって静かに泣く母親の姿を。
父親の話をし終えた瞬間の、哀しい表情を。
それは、子を思う母の気持ちと、愛する夫を想う女の気持ちがそうさせてしまうのだが、まだ中学生の子供である弾には理解が出来ない。
「辛いなら…忘れちまえば良いんだ」
道行く人に気付かれないよう小さく言葉をこぼし、本日二度目のため息をついた。
「ため息ついたら〜、ため息税を払わんかい!!」
「はぁ!?」
やけに陽気な声で意味不明な言葉を投げかけられた事に驚き、弾は声のした方へと振り返った。
そこにいたのは、小柄な弾ではむち打ちになりそうなくらい見上げなければ顔が見えない程の長身の持ち主。
だらしない制服の着こなしに(弾も大差ないが)、オレンジの髪を短く立たせ、下手すればキツネのようにツッた切れ目をヘラヘラと細めた…弾の一番の友達。
「おはようさん。税はまぁ、出世払いで許したるよってに」
「謳花…また演劇ってやつの影響受けたのかよ」
「おっ、解った?今回の劇は最高やったで〜!益田四郎時貞とシローの物語でな!シローの方の歌声がまた………」
水を得た魚のように次から次へと言葉を出す謳花に、弾は"しまった"と心の中で呟いた。
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