イジワルな先輩との甘い事情


「申し訳ありませんが、柴崎は僕の恋人なので連れ出させて頂きますね」

和田さんに、だろうか。
そう言った先輩が「よいイブを」と言い、歩き出す。

後ろから「え?」って和田さんの声が聞こえた気がしたけど、私も肩を抱かれたまま歩いて……でも、まだ目が慣れていないせいで何かにぶつかりそうで怖い。
思わず先輩にぎゅっとしがみつくと、頭の上からクスって笑い声が降ってきて、肩を抱く手に力がこもった。





預けていたコートを受付でもらってから、長井工業を出る。
特に止められなかったのは、若社長が〝連れ出すも自由〟なんて謳っていたからだろうか。

社員さんににこやかに見送られたのもきっと、このパーティでカップルになったと思われたからかもしれない。

外に出てすぐにコートを着て前を閉めると、待っていてくれたのか、先輩が「大丈夫?」と聞きながら手を差し出してくれた。

「あ、はい」

こんな風に外で手を繋ぐなんてあまりないから、いいのかなってドキドキしながら手をとると、きゅっと軽く握られた。
21時前の空は完全に夜空に名前を変えていて、星が散らばっている。

冬の方が星空が綺麗に見えるっていうのは知っていたけど、それがなんでかは知らなかった私に、先輩がその理由を教えてくれたのは確か大学二年の頃だった。

『冬は空気中の水蒸気が少なくなるから、よく見えるんだよ。
それに 気温が低いから空気分子運動が少ないし不純物を拡散したり持ち上げたりしなくなるから』

言葉の後半部分は難しくてよく分からなかったけど、でも、そんな事を知っている先輩に驚いて『先輩、すごい……』と呟くと、『普通だよ』って笑われたけど。
そんな事はないと思う。

先輩は、知り合った頃から博識で、優しくて、感情をむき出しにしたりしなくて穏やかで……そして、強かった。
いつだって、完璧だった。

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