イジワルな先輩との甘い事情
「柴崎先輩、全然そんな感じじゃありませんし。むしろ私舐めてますし」
フォローのつもりなのか、それとも本音なのか。
安藤さんの言葉に苦笑いを浮かべながら、残っているカップに手を伸ばした。
私が専務の娘だって噂は事実だ。
でも、安藤さんの言うように、だからどうだってわけではない。
お父さんに何かをしてもらって入社をこぎつけたわけでもなければ、仕事の事で手を貸してもらっているだとかそういう事もない。
家で顔を合わせば、今している仕事の内容を話したりもするけれど、基本的に部署が違うからお互い特に干渉もしないし。
当たり前だけど、社内ではただの一社員だ。社会人として、働いているのだから。
だから例えば、私がミスをしてそれをひどく叱られたからといって、お父さんに言いつけるだとかそんな事はないのだけど……。
上司からの怒られ方が私だけ甘いだとか、専務の娘だからとか。
そんな噂は、事あるごとに嫌な感じに脚色されて出てくるのが現実だ。
「あ、舐めてるっていうのは、後輩の私でも気軽に接せられるような雰囲気を柴崎先輩が出してくれてるっていう、いい意味ですからね。もちろん、尊敬もしてますから」
「え……あ、ありがとう」
「私だったら、いい加減な仕事してる後輩とかにはもっと厳しく当たっちゃうけど、先輩は感情のまま怒るとかしないですし。
性格上の事もあるかもですけど、でも、私にはできないからすごいなって思ってます。
だから、北澤さんをかけての勝負は正々堂々としますよ」