イジワルな先輩との甘い事情
ノー残業デーだから、いつもなら一時間前には先輩の部屋にお邪魔してるのに、今日は安藤さんと競うように生保の勉強してたから……。
慌てて通話ボタンを押すと『花奈?』って呼ぶ声が聞こえて、胸がギュって縮こまった。
電話くれたのって、遅いから心配してくれたからなのかなって考えたら余計に。
「あ、先輩、ごめんなさい……。あの、生保の勉強しててまだ会社で」
ノー残業デーっていっても、みんながみんな残業なしで帰れるわけじゃないから、社内にまだ社員はいる。
だから、ロビーの端に寄りながらそう説明すると、先輩が少し笑う。
『そんなに夢中になってたの? 分からないところがあるなら教えてあげるよ』
「あ、いえ。多分、合格点の70点はいけると思うんです……でも、できたら満点とりたくて」
『……それは、預金課の課長の方針で?』
「いえ……個人的な勝負っていうか……」
はっきりとは言えずにごにょごにょと答えていると、スマホの向こうから先輩が言う。
『とにかく、話は来てから聞くよ。夕飯は用意してあるからそのままおいで』
「あ、は……」
はい、と頷きそうになって、ある事を思い出す。
『ズルい手は使いたくないので、社外で会ったりはしません』
安藤さんが、そう言っていたのを。
「先輩……あの、今日は、私……っ」
『何か話があるなら、会ってから聞くよ。じゃあ、待ってるから』
「あの……っ」
安藤さんが会わないなら、私も会うべきじゃない。
勝負なのに、こんなの卑怯だ。
だから、断ろうとしたのに、少し強引に電話を切られてしまって……耳から離したスマホを見つめながらどうしようか悩む。