イジワルな先輩との甘い事情


……でも、好きな人相手に、頭の中で立てたスケジュールが順調に消化されるハズもなくて。

まず、部屋に入った途端香ってきたカレーのいい匂いにお腹が反応して、それを北澤先輩に笑われて「すぐ食べられるよ」なんて言われちゃえば、食べずに帰るなんて事、失礼だし言えない。
私が作るよりもおいしいチキンカレーに、すごいすごい言いながら食事を終えて、後片付けくらいはさせて下さいってお願いして食器を洗って、いつも通り頼まれるままにコーヒーを入れて。

今日は私は大丈夫ですって、コーヒーは先輩の分しか用意しなかったけど……だからといって、食べるだけ食べておいてさっさと帰るわけにはいかない。

せめて話を切り出すのは先輩がコーヒーを飲み終わってからにしようと、ソファーに座ってコーヒーを飲む先輩の横に座りながらそわそわしていたら、さすがにおかしいと思ったのか「今日は落ち着かないね。どうかした?」と先輩が聞いた。

「えっ、あ、はい……あのっ」
「あれ、花奈、指切ってる」
「え?」

指摘されて、どこだろうと両手を見ると、横から伸びてきた先輩の手が、右手を掴んで胸の高さまで持ち上げる。

「ほら、ここ」
「あ……本当だ」

指先で触られたのは、右手薬指の先だった。
確かに紙で切ってしまったような傷がある。もしかしたら、生保の問題集とかで切ったのかもしれない。


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