イジワルな先輩との甘い事情
七階建てのマンションの五階でエレベーターを下りて、506号室のインターホンを鳴らすと、間もなくして鍵の開く音が聞こえた。
玄関ドアを開けた北澤先輩が、私を確認するなりにこりと微笑むのを見て、胸がきゅっと締め付けられる。
「どうぞ」
「おじゃまします。あの、これよかったら」
部屋に上がったところで渡したのは、さっきドーナツ屋さんで買ったカレーパン。
北澤先輩も松田と一緒で甘い物が好きじゃないから。
受け取りながら「ありがとう」と先輩が微笑む。
「わざわざ寄ってきたの?」
「いえ。さっきまで友達とこのドーナツ屋さんで話してたんです。
総務課の園田……って分かりますか?」
「ああ、いつも花奈がいう“園ちゃん”だよね」
「はい。あと、第二営業課の松田っていう同期と一緒に色々話してて」
「松田って……あの?」
北澤先輩が眉をしかめたのにはわけがある。
北澤先輩もカッコいいって理由で社内では有名人だけど、松田も実は同じくらい有名人だ。もちろん、理由は違うけれど。
「はい。軽いって有名な松田です」
さすがに松田も仕事は大事にしているようで、社内の女の子に手を出したりはしない。
けれど、女のネットワークは凄まじいモノで、例えば松田が関係を持った子から友達伝いに噂はどんどん勢力を増し、ついにはうちの会社まで上陸して広がって。
今や松田の女遊びを知らない社員はいないほどだ。