イジワルな先輩との甘い事情
「へぇ……花奈と同じくらいの入社時期だっていうのは知ってたけど、同期だったのか。
しかも休日に会うほど仲がいいなんて意外だったな」
「松田って、不思議な魅力があるのかなんだか憎めないんです。それに、恋愛の事を除けば明るくていい人だし」
「らしいね。うちの課にも松田くんの噂は流れてくるけど、女性社員も、だからって松田くんが嫌いだとかそういう事を言うわけでもないし。人徳なのかな」
「そうですね」
「顔もいいってよく聞くけど」と、キッチンに立った先輩がケトルに水を入れながら聞くから、隣に並んで吊り戸からマグカップをふたつ取り出しながら答える。
「そうですね。あれだけ軽いって噂があるのに人気あるみたいです」
「へぇ」とだけ言った先輩に、座っててくださいとお願いして、コーヒーを入れる。
先輩が、インスタントコーヒーはいつも決まったメーカーのしか飲まないって知ってから、私も家に同じモノを置くようになった。
もともとコーヒーが得意じゃないから、ひとりで飲んでもあまりおいしいとは感じないけれど、先輩の部屋で飲むコーヒーは好きなんだから不思議だ。
コーヒーの入ったカップをふたつ持ってリビングに行き、ローテーブルの上に置いたところで、先輩に「花奈」と名前を呼ばれた。
見ると、ソファーに座った先輩が笑みを浮かべて私を見ていて。
「おいで」って言葉と一緒に少し広げられた手に、吸い寄せられるように近づいた。