イジワルな旦那様とかりそめ新婚生活
「からかわれたんだよ。俺と結婚するとは一言も言わなかったぞ」

刹那さんの言葉に思わず目が点になる。

……そう言われてみるとそうだった気もするけど……。あの場合、お姉ちゃんが刹那さんと結婚するって思うじゃない。

「……そんなあ。こっちは真剣だったのに……」

一体何がどうなってるのかわからない。

ホテルに着くと、刹那さんは私を庭園に連れ出した。

十一時を過ぎているせいか、他の宿泊客の姿は見えない。

「顔合わせの日の夜、薫子が俺のオフィスに訪ねてきた。取引をしようと言って」

「取引?」

「当初の予定では薫子と式を挙げて、じいさんが無事に退院すれば別れる事になっていた。それは俺と薫子が交わした契約だ」

「別れる事前提ですか?」

私は目を丸くする。

「お互い好き合ってた訳でもない。薫子には借金が一千万あって金が必要だった。梅園家への融資とは別にな。俺は知っての通りじいさんの手術のために梅園家の娘が必要だった。じいさんが元気になれば、浪費家で我が儘な嫁などいらない。一緒に暮らすつもりもなかった。利害が一致していたんだ」
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