落ちる恋あれば拾う恋だってある
笑う椎名さんの後ろから車を降りてアパートの部屋について行った。
「どうぞ」
「お邪魔します……」
「夏帆ちゃんここに座って」
私はベッドの前に座った。椎名さんはテレビ台の引き出しから消毒液と絆創膏を取り出した。
「腕出して」
大人しく腕を差し出すと消毒液をかけられ、ティッシュで優しく拭かれた。
「これでいいよ」
両腕に絆創膏を貼られ、なんだか子供みたいになった。
椎名さんは冷凍庫から手のひらに収まる大きさの保冷剤を出すとタオルで包んだ。それを私の頬に当てる。叩かれてから時間がたったから腫れは引いてきたけれど、椎名さんは悲しんでいるような怒っているような複雑な顔で私を見つめる。そんな椎名さんの視線に耐えられなくて下を向く。
「椎名さん、花瓶ありますか? この花を水に浸けときたいんですけど……」
私はもらった花束をずっと傍に置いていた。もう手遅れかもしれないけど花を少しでも元気にしてあげたい。
「あー……花瓶はないな。じゃあグラスで」
椎名さんは高さのあるグラスに水を入れ、花束の包みを取るとグラスに挿しテーブルに置いた。
「ありがとうございます」
踏まれなかった綺麗な花もまだある。少しでも長く持てばいいな。
花を眺める横で椎名さんは腕をさすった。
「腕大丈夫ですか?」
「うーん……湿布とかないし、このままほっとけば治るよ」
私の不安そうな顔に椎名さんはまた笑った。
「俺より自分のこと心配しな。今日は大変だったんだから」
それでも椎名さんの怪我が心配で自分の頬に当てた保冷剤を今度は椎名さんの腕に当てた。
私の方に身を乗り出した椎名さんの手が私の足に触れた瞬間「痛っ」と小さく呻いた。