落ちる恋あれば拾う恋だってある
「それは言ってないかな」
「は?」
「メンテの回数が増えれば、少なくとも月に2回は夏帆ちゃんに会えるでしょ」
「なっ……」
今この人は何と言った?
「それに、エアコンも原因なのは本当だし。メンテナンスはした方が植物のためにもなる。うちの会社としてもありがたいしね」
椎名さんはまた耳元で笑うと私から離れ「では来月からよろしくお願い致します」と言って頭を軽く下げ、エレベーターに乗ってしまった。ドアが閉まる直前、頭を上げた椎名さんは私に向かって笑顔で手を振った。それに応えて振り返すことなんてできるわけもなく、ドアが完全に閉まっても体が硬直して動けなかった。
『月に2回は夏帆ちゃんに会えるでしょ』
そんなことを言われたのは初めてで、自分の中でどう処理をしていいのか分からない。
きっと私のことをからかってるんだ。合コンの夜だって椎名さんの行動は意味不明だったじゃない。
でもやっぱりメンテナンスは2回もいらない。余計な経費は節減しなければ。椎名さんに言うよりもアサカグリーンに直接連絡して、部長にも報告して、宮野さんにも……。
宮野さんのせいで枯れたんですなんて私からは言えないな……。本人は良かれと思ってやっているのだから。
「……さん、北川さん」
「あ、はい!」
考えに夢中で呼ばれたことにすぐには気づかなかった。声のした方を見ると、私のすぐ後ろに横山さんが立っていた。
「す、すみません気づかなくて……」
「いいよ。忙しいとこごめんね」
今日も変わらず爽やかな笑顔で私にまで気を遣ってくれる。横山さんはまた手に書類を持っていた。
「申請書なら大丈夫ですよ。預かります」