どうぞ、ここで恋に落ちて
ポカーンとする樋泉さんのせいでちょっと耳が熱くなるのを感じながら、それでも視線は逸らさずに握った右手にぎゅっと力を込めた。
「少なくとも、いろいろなあなたをもっともっと好きになりたいと思うくらい、樋泉さんのことが大好きです!」
フンッと息巻いて言い切ると、呆けた顔の樋泉さんの目の縁に赤い花が咲く。
口をパクパクさせて何か言おうとする樋泉さんがかわいくて、久しぶりに彼の前で自然と口元が緩むのを感じた。
「だから、樋泉さんが私よりお仕事を優先しても、ダメなところやかっこわるいところがあっても、嫌いになったりしません。私が欲しいのは、いつもの気品も色気も、理性さえもかなぐり捨てた剥き出しの樋泉さんです」
私は樋泉さんの瞳をじっと見つめて背伸びをし、ふたりの視線を遮るメガネに手を伸ばす。
いつだったか、すずか先生も同じことしてたなあ。
もしかしたらすずか先生は、このメガネの奥に隠されている等身大の飾らない樋泉さんに気付いていて、そんな彼を好きだと思っているのかもしれない。
私は頭の片隅でふとそんなことを考えながら、細身のアームに指をかけて、固まる樋泉さんからするりとメガネを外した。
レンズ越しでない彼の両眼に引き寄せられ、つま先立ちのまま樋泉さんの胸に手を置く。