どうぞ、ここで恋に落ちて
18.春を求めて
週の明けた月曜は、カラリと晴れた気持ちのいい日だった。
真っ青な空には白い雲がひとつだけ浮かんでいる。
しっとりと肌を覆う汗さえ太陽が乾かすかのようで、先週のモヤモヤとした気持ちもウソのように晴れ渡っていた。
8月も終わりに近付く今日も、一期書店はつつがなく営業中だ。
私は今朝届いたダンボールの中から次々と顔を出す新刊を手に取り、美しい装丁や肌触りの良いものにあたると勝手にニヤける口元をギュッと引き締めた。
ほんとに、どうして新しい本との出会いはこんなに心を弾ませるんだろう。
まるで恋の始まりみたいに。
レジの裏にある作業スペースで夢中になって本を仕分けていると、表に立っていた咲さんが小声で私を呼んだ。
「古都ちゃん、ちょっと代わろっか」
「え? 大丈夫ですよ、私、こういう作業好きなんで」
首を振る私に咲さんが苦笑する。
「古都ちゃんがそういう地味な作業大好きなのは知ってるけど。いいから、ほら」
そこまで言われてこだわる理由もないので、私は首を傾げながら咲さんと入れ替わってレジに立つ。