どうぞ、ここで恋に落ちて
樋泉さんは私の髪をなでたり耳をくすぐったり、ときどきそっと唇を押し当てたりしている。
そうしていると次第に頬の火照りが収まってきて、私は自分を抱き込む男の人を見上げて呟いた。
「さっき、マスターが言ってたんです。『女の子は砂糖とスパイスと、それから素敵な何かでできている』って」
「へえ、なんだろう。マザーグース?」
目を瞬きながら首を傾げる樋泉さんには、それでもマザーグースの引用だということはすぐにわかるらしい。
文学的知識の豊富な人ばかりに囲まれている気がするのは、気のせいかな。
自分だけ落ちこぼれになった気分で若干ヘコみつつ、私はコクリと頷いた。
この人と比べて悩むのはもうやめたんだ。
嫉妬するほど憧れるのなら、私は彼を指針にして、知らないことはこれからもっと知ればいい。
「それで、私、思ったんです。私にとっての"素敵な何か"は、樋泉さんとの恋だったらいいなって」
「え?」
樋泉さんは今度こそ私の言うことが理解できなかったみたいで、精悍な両眉の間にシワが寄っている。
これは、マスターの話を聞いてからずっと考えていたことだった。
女の子をうんと魅力的にしてくれるという、砂糖とスパイスと"素敵な何か"。