どうぞ、ここで恋に落ちて

「そしてこっちは、俺からのプレゼント」


樋泉さんは紙袋の中に手を入れ、取り出したものを『砂糖とスパイス』の隣に置く。


「…………え」


ちょ、ちょっと待って。

どういうこと?

なんで、どうして、どうやって?


驚きすぎて口がぽかんと開いて塞がらない。

頭の中が停止して声も出なくなってしまった。

樋泉さんが袋から取り出したものも同じく、『砂糖とスパイス』だった。

しかしそれは、私がいくら探しても見つけることのできなかった、春名栄太郎さんという翻訳家による旧訳版だ。


「なっ、えっ?」


樋泉さんはどうやってこれを手に入れたの?

ていうか、初めて会った日に、私が絶版になってしまったこの本を探してると言ったこと、覚えてたの?

まさか樋泉さんが旧訳版の『砂糖とスパイス』を見つけてくるなんて夢にも思わなかった。

私が古本市や書店を巡っても一度も目にすることができなかったものなのに。


中学生のときに地元の図書館で読んで以来、できることならもう一度読みたいと思っていた。

私が本を読むことを好きになったきっかけでもある、大切な一冊だ。


言いたいことも聞きたいこともありすぎて、何から言葉にしたらいいのかわからない。
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