シンデレラに恋のカクテル・マジック
「親のことはあまり考えたことないなぁ。二人とももう定年退職しててね、毎日一緒に散歩したりときどき旅行に行ったりして、仲良く暮らしているよ。兄貴夫婦が近くに住んでいて、子どもを連れてよく遊びに行くみたいだし。それなりに楽しそうだね」
「そうですか……」

 永輝は体の後ろに手をついて空を見上げた。

「ふとした瞬間に、過去を振り返ってしまうんだ。あのときああしていたら、違った結果になったんじゃないか、とかね。そうやって悩むのはめんどくさい。そうやって考えたくないから、夢中になれるものを探す。フレアとかかわいい女の子とか」

 永輝が菜々を見てニヤリとした。

「菜々ちゃん、俺と付き合ってみない?」

 菜々は目を見開いた。永輝の口調は冗談交じりだったが、釘を刺しておく。

「私のことは口説かないって約束でしたよ」
「そうだったなぁ、そんな約束、しなきゃよかった」

 永輝が残念そうに言った。そうしてしばらく青空を見上げていたが、ぽつりと言った。

「本当はね、前の彼女のことを考えてしまいそうになるんだ。だから、忘れようと思って」
「前の彼女……?」

 菜々はつぶやくように言った。
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