ひねくれ作家様の偏愛
「ね、着替えよう。そしたら、タクシーで帰ればいい」


私の熱心な誘いに、海東くんは一瞬視線をそらした。
彼にしては珍しく困惑の表情だ。

そんな顔しないでほしい。
もしかして、私、物欲しそうに映っていたかな。


「何も……しない!……から」


口にしてみて、失言だとわかった。
自分で『下心ありません』と言うことの恥ずかしさに気づき、私は赤面した。


「当たり前ですよ。バカですか、あんた」


海東くんは視線をさまよわせたまま答える。


「仕方ないんで、行ってあげます。この貸しは大きいですよ」


こういうの、“貸し”って言わないんですけど。
でも、私の発言も間抜けだったから言い返せない。

どうにか折れたひねくれ男の右腕をつかみ、私は傘の中に引き入れた。
狭いビニール傘に並んで入ると、腕と腕が当たる。
海東くんの身体が冷え切っているのがわかる。


「よければ、シャワーも使っていって」


海東くんが返事をしないので、私はまた変に響いていたかと慌てた。
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